「私たちは1階にあった、あの小さめの部屋に3人で寝泊まりするので大丈夫です」
僕はここにあるお部屋を使えばいいのにって言ったんだけど、お姉さんたちは絶対ダメって言うんだ。
それにね、一階にあった変なお風呂場の近くに、ここで働く人たちのためのお部屋が何個かあったでしょ?
あのちっちゃなお部屋を、お姉さんたちは三人で使うって言うんだ。
「え〜、お部屋はいっぱいあるんだよ? 一個ずつ使えばいいじゃないか」
「そうかもしてないけど、一階の部屋でも今私たちが使っている宿の部屋より広いのよ。あんなところを一人で使うなんて、とてもできないわ」
ここにあるお客さん用のお部屋よりは小さいんだけど、貴族様のお家で働く人のためのお部屋だからあのお部屋も僕がお兄ちゃんたちと一緒に寝てるお部屋の倍くらいはあるんだよね。
だからお姉さんたちはあそこでも広すぎて、一人で使うのなんて無理なんだって。
「せっかくいっぱいあるんだから、一個ずつ使えばいいのに」
「あまり広い部屋だとね、緊張して落ち着かないのよ」
キルヴィさんたちはね、イーノックカウに出てくる前に住んでた村でもちっちゃなお家に住んでたんだって。
だから今までおっきなお部屋に住んだことなんてないから、ほんとだったらもっとちっちゃいお部屋の方がいいくらいなんだよって、ちょっと困ったお顔で僕に言うんだ。
「そっか。じゃあしょうがないね」
って事で、お姉さんたちは二階に上がる階段から一番近いお部屋を使う事に。
でね、その周りのお部屋はロルフさんちから来る人たちが使う事になったんだよ。
「ロルフさん。二階のお部屋、使わないの?」
「うむ。ここに来るのは見習いが多いからのぉ。ライラだけは位が上だから客間の一つを使わせてもらうつもりじゃが、他のものはあの部屋の広さがあれば十分であろう」
ロルフさんちでも、メイドさんや使用人さんたちのお部屋はあそこにあるのとおんなじくらいの広さ何なんだって。
だからここにあるお部屋よりも、あっちを使った方が使いやすいんだってさ。
「おお、そう言えばギルマスよ。この館はいつ、ルディーン君に受け渡すつもりなのじゃ?」
「役所への居住権取得申請は冒険者ギルドが行ってくれていますし、この土地の売却契約自体もすでに合意に至ってますわよね。それにルディーン君の商会を立ち上げるとなればわざわざ商業ギルドを通さずとも、売却代金は冒険者ギルドから後日引き落としという形で問題ありませんもの。ならば後は契約書を作り、私とルディーン君が署名すれば今日この瞬間にでも可能ですわよ」
お家を買うのって、すっごくお金がいるでしょ?
だから売る方と買う方がどっちもいいよって言ったら、お金を払う前でもそのお家を渡しちゃっていいんだってさ。
「そろそろ役所でも、ルディーン君の居住権取得が認可されておる頃じゃろう。ふむ。ならばその書類を作成しさえすれば、この者たちをルディーン君が所有するのに何の問題もなくなるという事じゃな」
「そうですわね。館はもう一通り見て周りましたし、一度冒険者ギルドに戻ってその手続きに入りましょう」
お姉さんたちが借金奴隷にならないためには、僕が居住権ってのをとってお家を買わないとダメだったでしょ?
でもそのどっちもこれで大丈夫になったからって、ロルフさんたちは僕がお姉さんたちをもらうために冒険者ギルドに戻ろうって言うんだ。
「ああ、じゃがその前に一つ、やっておくべき事があるか」
「ロルフさん。なんかやるの?」
「うむ。今はわしの別宅に来られるようになっておるが、これからはこの館へと飛んでくる方が何かと都合がよい。それにじゃ、この館に住むとなれば、この娘らにもルディーン君の秘密を話し、秘匿させねばならぬであろう?」
ロルフさんは僕にそう言うと、お姉さんたちにお話があるからこっち来てって。
でね、ちょっと怖い顔しながらこう言ったんだ。
「おぬしらを借金奴隷にしないためには、ルディーン君の所有物になってもらう必要がある。これは解るな」
「はい」
「うむ。実はな、ルディーン君にはいろいろと秘密があってのぉ。その中でも一つ、特に大きな秘密があるのじゃ」
ロルフさんはね、長いお髭をなでながらお姉さんたちの目を一人ずつ見てからこう言ったんだ。
「あらかじめ言っておくが、便宜上奴隷ではないという事になってはおるが契約魔法は同じものが使われる以上、もしおぬしらが契約者であるルディーン君が不利益を被るような事をしたり、ましてやその秘密を誰かに漏らした場合は犯罪奴隷に落ちる事になる。その事を心しておくように」
これを聞いて怖くなっちゃったのか、三人とも固まっちゃったんだよね。
でもそんなお姉さんたちを見たロルフさんたちは、うんうんって頷きながらにっこり笑ってこう言ったんだ。
「ふむ。わしが話したことの意味を、きちんと理解したようじゃの。なに、そこまで硬くならずともルディーン君を裏切ったり、その秘密を誰かに話したりせねば良いだけの事。じゃがこれを心に留めておらねば、何かの拍子にルディーン君にとって不利益になる事を親しいものに漏らしてしまうなどという事もあり得るからのぉ。ちと釘を刺しておいたと言う訳じゃ」
ついうっかり話しちゃったとしても、魔法で契約をしてるからすぐに犯罪奴隷になっちゃうんだって。
でね、その犯罪奴隷ってのは借金奴隷と違って一生そのまんまだし、それにすっごく危ないとことかで働かなきゃダメなんだよってロルフsんは言うんだ。
「折角ルディーン君が好意で借金奴隷にならずともよい環境を用意してくれたのじゃ。恩を仇で返す様な事は、決してするでないぞ?」
「はい、解っています」
キルヴィさんたちはね、ロルフさんの目をじっと見ながら絶対にそんな事をしないよって言ったんだよ。
そんなお姉さんたちにロルフさんは満足したみたいで、
「それでは、先ほど話したルディーン君の秘密を見てもらう事にするかのぉ」
にっこり笑いながらそう言うと、僕の方に振り返ったんだ。
「ルディーン君。まだクラウンコッコの魔石は残っておるか?」
「うん! まだいっぱいあるよ」
「それはよかった。その魔石はな、ブラックボアの魔石と同じくらいの魔力を内包しておるのじゃよ」
ロルフさんはね、前に僕がブラックボアの魔石でやったみたいに、クラウンコッコの魔石でもジャンプの魔法で飛んでく場所の登録をする魔法陣を刻むことができるんだよって教えてくれたんだ。
「じゃからな、ルディーン君。せっかくこの館に来ておることだし、その魔石を使って登録し、この娘らの前で実際に魔法を使ってみてはどうかと思うのじゃよ。さすれば口で説明するよりも理解が早かろう?」
「そっか! うん。僕、やってみるね」
こうして僕は、このお家の中に手に場所を作って、みんなの前でジャンプの魔法を使って見せる事になったんだ。
今回出てきた借金奴隷の契約魔法ですが、実はこれ、奴隷にだけ適用されるものではなかったりします。
例えば守秘義務があるような地位にある人たちは、このような契約を魔法でしているんですよ。
特に特許関係の仕事をしている人達は、そのほとんどすべてがこの契約を結んでいます。まぁその分、他の職種の人たちよりもはるかに高給取りなんですがw
だからこそこんなファンタジー世界であっても、特許なんて制度が成立しているんですけどね。